手術支援ロボット「ダビンチ」の普及で 世界標準の医療を目指す【香川大学医学部附属病院】
※最新の情報とは異なる場合があります。ご了承ください。
医師とロボットが一体となって手術を行うロボット支援下手術。近年、アメリカに次ぐ勢いで利用が急拡大しています。ロボット支援下手術は、遠隔操作で医師が正確な手技を行えると同時に、患者の体への負担(侵襲)が少なく術後の回復が早いことから、早期社会復帰の一助になっています。「チーム ダビンチ」をけん引する香川大学医学部附属病院副病院長の杉元幹史先生に、ロボット支援下手術のメリットや課題などについて話を聞きました。
※こちらの医療情報は月刊ナイスタウン2024年10月号時点のものになります。
杉元 幹史 先生(Mikio Sugimoto)
香川大学医学部附属病院副病院長、泌尿器・副腎・腎移植外科長(教授)、ロボット手術センター長
専門は、泌尿器科がん、前立腺がん、 腹腔鏡手術、ロボット手術
コメント:私の目標は、「香川大学医学部附属病院に関わる すべての人が幸せになる」ことです。
ロボット支援下手術とは?
医師(術者)が、手術支援ロボット「ダビンチ」を使って、離れたところにあるロボットアームを動かして手術を行う方法です。ロボットが人間の代わりをするのではなく、あくまで術者の精密な手の動きを、ロボットアームを使って遠隔操作で再現する手術です。
当院では、2013年6月からロボットを導入し、同年8月から既に保険適用されていた前立腺がん手術を行ってきました。その後、直腸がん、腎臓がん、膀胱がん手術に加えて、22年4月からは、副腎腫瘍や腎盂・尿管がんに対する手術も保険適用になり、今では消化器外科、呼吸器外科、心臓血管外科、婦人科、耳鼻咽喉科領域において、多くの術式が保険適用となっています。
ロボット支援下手術の特徴は?
医師(術者)が、手術支援ロボット「ダビンチ」を使って、離腹腔鏡手術をさらに進化させたロボット支援下手術は、より正確な手術手技を実現するとともに、患者さんの負担が少なくなるよう開発された最新の低侵襲手術です。
最大の特徴は、明るく拡大された高精度の3D映像を見ながら手術を行えることで、かつては不可能であった精密で細かい操作が可能になりました。膜の1枚1枚、神経線維の1本1本がはっきりと見え、世界が広がります。また、腹腔鏡手術では不可能だった可動域制限を克服したため、術者の手の動きを、コンピュータを通して忠実かつ正確に再現でき、細かな剥離操作や縫合操作が意のままに出来るのはダビンチの凄さです。
また、患者さんにとっても開腹手術に比べて格段に出血量が少なく、体力が温存でき、術後の合併症も少なく、回復も飛躍的に良好です。そのため、今までは体力的に手術が難しかった高齢者にもより安全に行うことが出来るようになりました。
▲体内を見る内視鏡カメラと、3本の手術器具を取り付けたアームをもち、医師は手術台から離れた場所に置かれた装置で、3次元画像を見ながら手術を行います。
どのような手術に適して いるのでしょうか?
これまで開腹手術や腹腔鏡手術で行ってきたほとんどの手術はロボット支援下手術が可能です。
男性で罹患(りかん)者数が最も多い前立腺がんは、手術にロボットが使われる代表的ながんの一つです。前立腺がんに保険適用が認められていることからも分かるように、ダビンチの鉗子は、複数の関節によりさまざまな動きが可能で、特に骨盤のような体の深部の手術や、縫合手技が必要な手術に特に有用性を発揮します。
▲手術支援ロボット「ダビンチ」を操作する杉元先生
貴院のロボット手術センター の役割とは?
ダビンチは、国内で2009年11月に薬事承認されて以来、国内の導入台数は、いまや800台に迫る勢いです。県内では基幹病院6施設で8台が稼働しています。もはやロボット支援下手術は、先進的な手術ではなく、当たり前の方法となってきているのです。
近年は、ダビンチを含むロボット手術装置の活躍の場が広がっている一方で、不要な治療が行われている、すなわち過剰医療となっているという懸念があります。前立腺がんの場合、腫瘍マーカー検査の普及によって、早期に発見される頻度が高くなっています。当院では、がんが早期に発見され、ある種の悪性度が低く、腫瘍量も多くない前立腺がんに対しては、ただちに治療を行うのではなく、治療開始を当面遅らせるという監視療法を積極的に行っています。このように、なんでも手術をすればいいというわけではありません。本当に手術をすることのメリットがある人に対してのみ手術を行うといった、冷静な状況判断をできることが医師に望まれている能力です。
ロボット支援下手術の実施においては、患者さんにとっての有効性を適正に判断しているか、術者に十分な技量や知識があるかなどについて、第三者の客観的判断が必要になります。そのため当院では「ロボット手術センター」を設けており、手術実施の可否の判断基準を作成しています。さらに、手術中の出血量や手術時間がある一定の基準を超過した場合は、即刻、手術中止を指示できる権利を持っており、安全性と必要性を担保することに機能しています。
今後、ますます医療の分野においてもテクノロジーが進化していくなかで、適正かつ最良の方法で患者さんの命を救うことが使命です。当院としては、県下唯一のアカデミック施設として、次世代の医療者を教育し、優れた医師を世の中に輩出することを目指しています。そして新しい治療法の開発、研究を推進し、最後の砦として県民の信頼を得られるように努力を続けて参ります。今後とも香川大学医学部附属病院、『かだい病院』をどうぞよろしくお願いします。
【取材先】
香川大学医学部附属病院
住所:香川県木田郡三木町池戸1750-1
電話:087-891-2202